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津山簡易裁判所 平成5年(ろ)28号 判決 1996年3月18日

主文

被告人を罰金四〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金五、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(犯罪事実)

被告人は、法定の除外事由がなく、かつ、京都府、兵庫県、岡山県の各知事及び京都市長の許可を受けないで、別表記載のとおり、平成五年八月二一日ころから同年一〇月三〇日ころまでの間、前後八七回にわたり、株式会社京都タンパク外二業者から産業廃棄物である「おから」合計約五二二トンの処理委託を受け、処理料金を徴して京都市伏見区横大路千両松二〇〇番地所在の右株式会社京都タンパク外二か所において収集し、同所から岡山県英田郡作東町〓河内一七三番地の一所在の被告人の経営する荒川畜産工場まで運搬した上、同工場において熱処理して乾燥させ、もって産業廃棄物の収集、運搬、処分を業として行ったものである。

(証拠)省略

(弁護人及び被告人の主張に対する判断)

弁護人及び被告人は、<1>本件「おから」は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「法」という。)にいう産業廃棄物に該当しない。<2>仮に、産業廃棄物に該当するとしても、被告人の行為は、法一四条一項、四項の各ただし書に規定する法定の除外事由に該当する。<3>被告人が、「おから」の収集、運搬、処分について、委託業者から受取った処理料金は、その必要経費にも足りない額であるから、対価を得たことにならない。<4>被告人は、本件行為が法二条の二に規定する国民の責務と信じて、多額の資金を投じて肥料等の原料を製造していたものであって、その行為につき、罪を犯すという意思がなかった旨主張するので、以下検討することとする。

一  産業廃棄物該当について

1  法二条四項は、産業廃棄物について、「事業活動に伴って生じた廃棄物のうち、燃えがら、汚でい、廃油、(中略)その他政令で定める廃棄物をいう。」と定義し、同法施行令二条一号ないし一三号において、廃棄物の内容を掲げているが、同条四号は「食料品製造業、(中略)において原料として使用した動物又は植物に係る固形状の不要物」と規定している。

2  本件「おから」は、不要物という点を別にすると、右四号にいう食料品製造業において原料として使用した植物に係る固形状の物質に該当する。

3  「おから」は、貴重なたんぱく源として食卓に上る時代もあったが、現在では、食品としての利用が極めて少なく、大半が家畜の飼料や肥料に利用され、しかも、製造業者が料金を支払って持ち帰って貰うという状況にある。

4  よって、生産者であり、占有者である豆腐製造業者にとっては、「おから」は不要物ということになるから、法二条四項、同法施行令二条四号にいう産業廃棄物に該当する。

二  法定の除外事由の有無について

1  法一四条一項、四項の各ただし書に規定する「専ら再生利用の目的となる産業廃棄物」に該当するか、

(一) 右「専ら再生利用の目的となる産業廃棄物」について行政の実務(法の施行についてと題する昭和四六年一〇月一六日付各都道府県知事、各政令市市長あて厚生省環境衛生局長通達)は、「古紙、くず鉄(古銅等を含む)、あきびん類、古繊維」の四種類のみを承認している。

(二) 他方、判例(最決昭五六・一・二七刑集三五・二・一四五)は、「その物の性質及び技術水準等に照らし、再生利用されるのが通常である産業廃棄物をいう。」と定義している。

(三) もともと、法一四条一項、四項が廃棄物処理業一般を知事の許可にかからせながら、専ら再生利用の目的となる産業廃棄物のみを取扱う場合をその例外とした趣旨は、廃棄物の処理から生ずる環境汚染等を防止するためには、右処理業一般を行政の監督下に置いて規制を加える必要があるが、廃品回収業者のように再生利用産業廃棄物のみを取扱う場合には、不法投機、焼却等による環境汚染を生ずるおそれが少ないから、これを業者の自主的な運営に委ねても、それほど弊害がないという点にある。

(四) 前記(一)の厚生省環境衛生局長通達により承認されている四種類と、「おから」の性質について、右の立法趣旨に照らして比較考察すると、早期に腐敗、発酵して悪臭を放つことなど、廃品回収業者の取扱う右四種類と異なることは明らかであり、現段階における技術水準等に照らしても、「おから」は、右四種類のように再生利用されるのが通常であるといえない状況である。

(五) よって、本件「おから」は、法に規定する「専ら再生利用の目的となる産業廃棄物」に該当しないから、法定の除外事由に該当しない。

2  法一四条一項、四項の各ただし書に規定する「その他厚生省令で定める者」に該当するか、

(一) 同法施行規則九条二号、一〇条の三第二号によると「再生利用することが確実であると都道府県知事が認めた産業廃棄物のみの収集、運搬又は処分を業として行う者であって都道府県知事の指定を受けたもの」と規定し、同法施行細則(岡山県規則六一号)一二条一項八号は、右規定により知事が指定する者として、「動植物性残さについては、飼肥料の製造又は飼肥料としての利用」を目的で、事業者から対価を受けないで収集、運搬又は処分を業として行うものと規定している。

(二) 「おから」が植物性残さであることについては異論がないところ、「おから」を肥料として利用する場合一般的には堆肥であって、堆肥は土壤改良剤にはなるものの厳密にいう肥料ではないし、その製造方法が埋立処分との区別に紛らわしい点もあって、再生利用することが確実であると都道府県知事が認めた産業廃棄物に該当するかどうか極めて疑問である。仮に、被告人の本件処理方法がその業に該当するとしても、被告人が、同法施行細則に規定する岡山県知事の指定を受けていないこと、事業者から処理料金を徴していることは明らかである。

(三) よって、被告人の行った収集、運搬及び処分は、法一四条一項、四項の各ただし書に規定する「その他厚生省令で定める者」に該当しないから、法定の除外事由に該当しない。

(四) なお、被告人が受領した処理料金は極めて少額であって、輸送費等必要経費の範囲であるから、同法施行細則にいう対価に当たらない旨主張するが、仮に、そのような見解に立つとしても、前記(二)のとおり知事の指定を受けていない以上法定の除外事由に該当しないことになる。

三  被告人は、大阪府から産業廃棄物中間処理業の許可を受けて「おから」等の処理を行っており、「おから」を収集運搬し、処理するためには、今回の場合は、京都市市長並びに京都府、兵庫県及び岡山県の各知事の許可が必要であることを知っていたこと、岡山県勝英環境保健所職員から、事情聴取、無許可産業廃棄物処理業の中止勧告を受けていること等からして、本件行為が本法に違反することを熟知していたことは明らかである。

四  以上のとおりであるから、弁護人及び被告人の主張はいずれも採用できない。

(法令の適用)

(刑法は、平成七年法律第九一号附則二条一項本文により、同法による改正前のものを適用)

罰条 廃棄物の処理及び清掃に関する法律一四条一項、四項、二五条一号、八条一項

刑種の選択 罰金刑選択

併合罪の処理 刑法四五条前段、四八条二項

労役場留置 刑法一八条

訴訟費用の負担 刑事訴訟法一八一条一項本文

(出席した検察官中野正紀)

別表

<省略>

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